{"content":{"p1":"滑らないほうが、いいんじゃないか？","p2":"父親は自宅の玄関を出たところで、息子のサンダルに足を取られた。","p3":"あいつめ、と小声でつぶやいた。どうしてあんなに不注意なんだ。別のところで暮らしてくれたら、どんなにいいだろう。","p4":"そして、ふと立ち止まった。","p5":"戦争のことを思った。砂漠から届いた兄からの手紙のことを。兄の戦死を知らせる手紙を、わざわざ自宅まで届けに来たあの将校のことを。","p6":"誤射、とそこには書かれていた。","p7":"母が兄のお気に入りの靴下と靴を箱に入れ、その箱を、母の亡き後、自分が受け継いだあの押し入れの中にしまったことを思った。","p8":"兄の靴に、母の靴に、父の靴に、たった一度でも足を通せるのなら、この世のほとんど何だって差し出すだろうと思った。","p9":"ひとつ息をして、息子のサンダルを壁ぎわにきちんと揃え直した。","p10":"なんという旅に、たった今、連れて行ってもらったことだろう。"},"seoTitle":"靴 — ペンバ・ウモジャの短編","seoDescription":"父親が戸口で息子のサンダルに足を取られ、ほんのひと呼吸のうちに、愛と喪失の静かな相続のなかを歩く。ペンバ・ウモジャによる短い文学的寓話。","keywords":"短編 靴, 父と息子, 喪失の寓話, 家族の継承, 文学的ショートフィクション, ペンバ・ウモジャ"}